秘宝館のお土産もらったの。
話は変わるが、俺は銭湯が大好きだ。
そういうところも“おじい”と呼ばれるゆえんの一つだ。
東京には銭湯が約九百軒ある。
できればその全部に行ってみたいとさえ思う。
そして一軒でも多く、長く営業を続けられることを願っている。
銭湯という産業、伝統、文化を盛り立てる為にできることを考えている。
そいえばこないだ銭湯に行った時、下駄箱に靴を入れて番台で四百五十円を払おうとした刹那、後ろから客が入ってきた。その容姿が俺の目に飛び込んでくるより速く臭いの方が先に鼻に届いた。振り返るまでもねえ。ホームレスおじいちゃんだ。
軽く見積もっても一ヶ月は入浴してないと思われる。
まさかの事態だ。予想だにしてなかった。
彼らのお風呂は公園の水道じゃないのか? 四百五十円あればワンカップ二本とつまみを買うんじゃないのか?
熟成されたチーズの臭いのするおじいちゃんが銭湯に入ってくることによって何が起きるのかは分からんが、とりあえずいいことは100%ないだろう。川の神様じゃない限り。しかし、出しかけた千円札を今更引っ込めるわけにもいかず、俺はお金を払って中に入った。そして、早めに脱衣して浴場に移動。そこから様子を見ると、ちょうどおじいちゃんが脱衣場に登場したところで、おじいちゃんの姿を見るやいなや、脱衣場に凄まじい緊張感が走ってた。
「とんでもねえヤツが入ってきた」
誰かがそう呟いた。多分。
そして、全員の顔に浮かんでるのは「この事態は予想してなかった」みたいな表情。
そりゃそうだよ。彼らのお風呂は雨のはずだもん。四百五十円あれば酎ハイ四缶と魚肉ソーセージ買うはずだもん。
息の詰まるような緊張感の中、まるで武道の達人のようにゆっくりと一枚一枚脱いでいくおじいちゃん。太極拳かと思ったよ。
しかも結構着込んでんだ。全部脱ぎ終わった頃には、俺は湯船でかなり温まっていた。
しかし、真の緊張はここからだった。
その銭湯には湯船が二つある。
これから起こりうる危機に気づいた瞬間、俺はもう一方の湯船に入ってるおっさんと目が合った。お互い見苦しいほど露骨に「頼む! そっちに!」って顔をしてた。
そして、これまた武道の達人のようにゆっくりと体を流したおじいちゃんが向かった先は、
…俺の湯船だった。
さすがにすぐ出るのは悪いからしばらく二人でつかる。
おじいちゃんは久方ぶりの銭湯でかなり心地よさそうな顔。
俺全然心地よくねえ。
しばらくしてから、湯船を出て体を洗って、さて、最後にもうひとっ風呂浴びるかと思って、おじいちゃんが入ってない方の湯船を見たら、
ぎゅうぎゅうじゃん!
入るスペースねえ…。
体を流すフリとかしながら時間を稼ぎ、空きができた隙に飛び込み、なんとか事なきを得た。
こういうドラマも含めて銭湯の良さ。
嘘だわ。
その次行った時はおじいちゃんいなかったからすげえ快適だったし。
そろそろ夏。
暑い夕に銭湯行ってその後に冷たいビール呑むと本当に気持ちいいよ。
みんな、銭湯に行こう。